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先生のコラム

鍼灸医学と病理学の接点を求めて 西岡敏子
 
その1.精成りて脳髄生ず

本年から3年生の「病理学概論」を担当することになって、今までの教員生活で一番のてんてこ舞いを演じている。
しかし全く観点の違うと思われる東西の医学も、結局は「同じことをいっているのだ」ということがだんだんわかってきた。そんな体験を少し綴ってみることにした。まずは「発生学」に関することからである。

私が発生学に改めて興味をもったのは、『霊枢』経脈篇の冒頭にさりげなく置かれた次の文である。

「人始生.先成精.精成而腦髓生.骨爲幹.脉爲營.筋爲剛.肉爲墻.皮膚堅而毛髮長.」
(人の始めて生ずるや.先ず精を成す.精成りて腦髓生ず.骨を幹と為し.脉を營と為し.筋を剛と為し.肉を墻と為し.皮膚は堅くして毛髮長ず.)

訳してみると「人の発生は、先ず生命の大本である“精”の成立に始まり、この“精”から脳髄が生じ、これを守るように骨は根幹をなし、脈は營養をし、筋(すじ)は骨格を剛(かたく)繋ぎあわせ、肉はそれを墻(垣根)のように囲み、外表の皮膚が堅牢に覆って、毛髪が伸びてくる。」ということだろうか、この「精成りて腦髓生ず」の記述に「え、これって発生学じゃないの!」と私は衝撃を受けた。受精卵が一番はじめに形をあらわしてくる臓器は、脳髄の「もと」になる「神経板」だと思っていたからである。

下の3つの図を見ていただきたい。

図1は受精卵から「神経胚」までおよそ3週間の間のヒトの発生を示したものであるが、ここで形をあらわしてきた「神経板」こそ、脳髄の「もと」である。
図1:受精卵から「神経胚」まで(ヒト)

図2は脳髄を囲む「骨-筋-肉-皮膚」の鍼灸古典の基本的な階層構造である。図2:身体の階層構造
そして図3はその「神経板」から脳と脊髄へと進化する過程を示した模式図(カエル)である。
図3:神経板から脳髄への進化(出典JT生命誌研究館ホームページ)

厳密にいうと、受精卵から一番はじめに形成される臓器は、図1で「神経胚」の形成前にあらわれる「原腸胚」つまり「腸管」なのであるが、まあ、はっきりとした形としてあらわれてくるのは「神経板」であるといえるだろう。

次回からもこの「原腸胚」を含めた「発生」に関する話を続けたい。


【用語解説】
胚: 多細胞生物の発生初期の個体。動物では卵黄から養分を吸収している状態のもので、発生段階により桑実胚・胞胚・嚢胚・神経胚などに分けられる。
桑実胚: 多細胞生物の発生において、割腔(かつこう)がほとんど発達せず、割球がクワの実のように塊状になった胚。
胞胚: 動物の発生過程で、卵割が終わってから原腸形成が開始されるまでの時期の胚。割球に囲まれて内部に腔所ができるが、卵黄の多いものでは腔所が狭まり、できないものもある。続いて嚢胚となる。
嚢胚: 後生動物の発生で、胞胚に次ぐ段階の胚。内外2層の胚葉ができ、原腸が形成される。原腸胚。
原腸: 動物の発生において、胞胚の陥入によってできるくぼみの部分、およびその内壁。消化管の原基で、のちに腸管や肝臓などの器官に分化する。
神経胚: 脊索動物の発生過程で、神経板が現れてから神経管を形成するまでの胚。
神経板: 主に脊索動物の発生初期に、外胚葉の背側に生じる肥厚。やがて左右両側が隆起し、合わさって神経管をつくる。
神経管: 脊椎動物および原索動物の発生初期に、脊索の背側に神経板から形成される管状体。のちに中枢神経系および目・耳などが形成される。髄管。
 

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