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先生のコラム

鍼灸医学と病理学の接点を求めて 西岡敏子
 
その8.DNAと「易経」(上)

1.DNAの構造
シリーズの最後にDNAに触れてみたい。DNAには『易経』との共通点が多い。
キーワードは「らせん」、「相補性」、「対称性」、「トリプレット(三つ組)」などである。

まず総論的なことをいえば、「DNA」とは「デオキシリボ核酸・deoxyribonucleic acid」の略で、細胞核の染色体にある遺伝子の本体であり、アデニン・グアニン・シトシン・チミンの4種の塩基を含み、その配列順序に遺伝情報が含まれる。いわゆる「遺伝子の暗号」である。
およそ30億塩基対といわれるその情報量は膨大で、1巻1,000ページの大英百科事典280巻に相当し、1つの細胞のDNAを一列に繋ぐとその人の身長ほどの長さになるという。
それを染色体として核の中にしまうには、まず二重螺旋の糸を「陰陽」2回巻いた糸巻き(ヒストン)を「3陰3陽」の6角形のコイル状の構造(ソレノイド)の束にしてクロマチン線維をつくり、これがまた螺旋状に折り畳まれて…という巧妙な手段によるのである。細胞はまことに収納が上手である!
図1:DNAの構造
2.DNAの相補性
さて遺伝情報を伝えるためには細胞分裂に際してDNAの複製が必要になる。その時にはDNA二重ら旋の鎖の塩基結合を解いて1本ずつの鎖に分かれていく。
しかしDNAの塩基はシトシン(C)とグアニン(G)、チミン(T)とアデニン(A)と必ず「対」が決っているので、1本になった鋳型をもとにして対の塩基が再び結合して、完全な複製が図2のように完成する。
磁石の+極と-極が引き合うような「相補性原理」、「陰陽結合」の絶対的な原則がDNAに内在しているのである。

図2:DNA複製
3.DNAコドン表
以上のようにDNAは、T(チミン)、C(シトシン)、A(アデニン)、G(グアニン)の4種類で20種類のアミノ酸配列を指定する。
塩基1つでは4種類、塩基2つの組み合わせでは4×4=16種類しか区別できないので、DNAは3個ずつ、4×4×4=64種類を区別してコードしている。
またもや易の64卦と同じ数である。このトリプレット(三つ組)の配列をコドンという。
なお本稿を書くにあたっては、十数年前に読んだ『易経の謎』(今泉久雄著・光文社カッパブックス・1988年)の影響が多大ではあるが、「腑に落ちない」面に関しては、私の考えを自由に書かせていただくことにする。

さて、コドン表は図3にある塩基の図が4種類に色分けしてあり、なおかつ補色関係にあるので、それにT(チミン)、C(シトシン)、A(アデニン)、G(グアニン)を対応させてみた。
「陰陽」の区分は『素問』陰陽應象大論篇の「清陽」「濁陰」にそって、T(チミン)、C(シトシン)のピリミジン系塩基は構造が単純で軽いので「陽(清)」、A(アデニン)、G(グアニン)のプリン系塩基は構造がより複雑で重いので「陰(濁陰)」とする。なお、RNAではT(チミン)はU(ウラシル)に置き換わる。
図3:DNAの塩基
表1:コドン表(*異なるコドンボックスで指定された同じアミノ酸)
20種類のアミノ酸を指定するのに64のコドンがあるのは、1つのアミノ酸を指定する複数のコドンがあり、またアミノ酸を指定せずにその合成の「停止」を指定するものもあるからである。
あるいはまだ未知の理由が存在しているかもしれない。何せ「64」なのだから!

4.8卦コドン表
表1を八卦にあてはめたものが表2である。表示は2進法の表示方法で「陽-1」「陰-0」とした。
つまり「111」は「乾」、「110」は「巽」という具合である。
表2:易8卦表(*異なるコドンボックスで指定された同じアミノ酸)
表2にまとめると、八卦のコドン表は、「乾-巽」、「兌-坎」、「離-艮」、「坤-震のボックスを形成する。これは「乾」と右旋し、上行して「巽」と左旋する先天八卦の左右の「めぐり」の順序に一致する。

アミノ酸にも左右の螺旋があるということであるから、なんとも象徴的である。
また先天八卦図の各卦の対角線上の卦は陰陽を入れ替える形になっている。八卦のコドン表も「乾-巽」と「坤-震」、「兌-坎」と「離-艮」のボックスで、やはり陰陽が入れ替わっている形である。

図4:8卦のコドンボックス1
また「停止コドン」の「TAA」、「TAG」、「TGA」は、陰陽に置き換えると「100」の「艮山」で「停止」を象徴するし、「開始コドン」のATG(メチオニン)、GTG(バリン)、ATA(イソロイシン)は「010」の「坎水」、「冬」の「生命の内在と開始」を象徴する部分にあるのというのもすごい符合である。


つづく

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